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NIPTの基礎から将来の展望まで

監修 兵庫医科大学産科婦人科
兵庫医科大学病院 遺伝子医療部 教授
澤井 英明 先生

NIPTの基礎から将来の展望まで

2013年から、国内でNIPT(non-invasive prenatal genetic testing)が臨床研究として開始され、新しい出生前検査として社会的にも注目されている。NIPTは非確定的検査であるが、従来の非確定的検査と比較して検査精度(感度・特異度・陽性的中率)が高く、妊娠10週という早期から検査でき、さらに流産・死産のリスクがないという特長がある。
 本稿では、NIPTの基礎的な情報から検査を行う上での留意点や、遺伝カウンセリングの重要性、NIPT の今後の展望について議論したい。

NIPTの基礎知識

1997年、母体血漿中に胎児由来のcell-free DNA(cfDNA)の存在が報告された1)。これをきっかけとし、母体血漿を用いて胎児の遺伝子を検査する手法が研究され、次世代シークエンサーの開発を経てNIPTが実用化された。日本では、 2013年に導入され、2019年3月現在、臨床研究として実施されている。
 NIPTは、母体血漿中の胎児由来cfDNA断片を解析することで、胎児の 21番、18番、13番染色体の異数性を調べる出生前検査である。出生前検査のうち非確定的検査に含まれ、採血のみで検査を行うことができる。同じ非確定的検査である母体血清マーカー検査も採血のみで行うことができるが、NIPTはより高い精度をもつことが特長である。日本国内で 2013 年4月から2018 年3月までの 5年間で実施された臨床研究(58,150例)の結果から、陽性的中率は、21トリソミー:96.5%、18トリソミー: 88.1%、13トリソミー: 58.4%であった2)。また、陰性的中率は、99.9%という論文報告がある3)。これはスクリーニング検査として、極めて優れた結果である。さらに、妊娠週数の早い段階(10週以降)から検査できる点も妊婦にとって大きなメリットである(表1)。留意点はいくつかあり後述するが、従来の検査よりもメリットの多い検査と言える。

【表1】 従来の出生前検査との違い

【表1】 従来の出生前検査との違い

NIPTの原理

cfDNA 断片の解析方法にはさまざまな手法があるが、もっとも標準的な方法は、MPS(massively parallel sequencing)法である。MPS 法とは、母体血漿中の胎児由来 cfDNA 断片を次世代シークエンサーによって解析し、各染色体由来成分の量的な割合の変化を評価する方法である。
 例を挙げると、胎児の 21番染色体がトリソミーの場合、胎児の 21番染色体は1.5倍になっている。そのため、母体血漿中のcfDNA 断片に含まれる該当染色体の断片数も正常核型に比べてわずかに上昇する(図1)。そのわずかな変化を検出し、数値化することで陽性・陰性・判定保留のいずれかに判定を行う。

【図1】 cfDNA 断片の解析方法(MPS法)

【図1】  cfDNA 断片の解析方法(MPS法)

GeneTech NIPTで扱うMPS 法では全染色体を網羅的に解析するため、他の手法と比較しレアケースを的確に判定できるというメリットがある。一方で、解析に用いたすべての検体の中央値からの乖離を指標とするため、安定した中央値を決めるには一度に多くの検体を解析する必要がある(Column ①)。

Column ① その他のcfDNA 解析の手法

cfDNA 解析の手法としてはMPS法以外にも SNP 解析やマイクロアレイ解析などがある。また、同じ MPS 法でも LabCorp 社(Sequenom 社、日本では GeneTech 社)では染色体全体を参照染色体とした Z スコアを用いるのに対し、Illumina 社では 21番、 18 番、 13 番染色体ごとの参照染色体に対する normalized chromosome value(NCV)を用いるという違いがある。NCVでは、参照染色体に異数性が認められた場合、解析対象の 21番、 18 番、 13 番染色体に異数性があると解析してしまう可能性があるため注意が必要となる。

《cfDNA 解析の手法》

cfDNA 解析の手法

NIPTの留意点

NIPTの検査に用いる母体血は胎盤の絨毛間腔を循環し、絨毛と接することで胎児と栄養などのやり取りを行う。絨毛表面の絨毛細胞は新陳代謝を繰り返しており、壊れた絨毛細胞由来のcfDNA は母体血に取り込まれる。NIPTの解析対象は、この母体血に取り込まれたcfDNAであり、厳密には胎児由来でないという点に注意が必要である。
 胎児や母体の状態によってはNIPTの結果が判定できない場合もある。NIPTの結果が胎児の核型を正しく反映しない例としては、胎盤性モザイク(confined placental mosaicism : CPM)がある(図2)。モザイク現象とは、同一個体に遺伝的組成が異なる細胞が存在する状態を指し、まれに検出される現象である。このような場合では胎児と胎盤の核型の不一致が起こるため、胎児の状態を正しく反映しない(偽陽性・偽陰性)原因となる。
 また、CPMでは、胎児に染色体異常はなくとも、胎盤にのみ染色体異常のある細胞が存在し、NIPTで染色体異常を検出する可能性が高くなる。その場合、検査結果は陽性(偽陽性)や判定保留となる。逆に、胎児に染色体異常があっても、胎盤には異常がない(または異常のない細胞が大部分である)場合では検査結果は陰性と判定される。つまり、偽陰性となる。

【図2】 CPMが発生した場合

【図2】 CPMが発生した場合

ほかにも、NIPTの結果が胎児の核型を正しく反映しない例としてvanishing twin がある。vanishing twinとは、妊娠の早い段階で双胎一児死亡となった場合を指す。全体のcfDNA にどの程度寄与するかは個体差があるが、死亡した胎児の胎盤由来のcfDNAが NIPTの検査結果に影響を及ぼすことがある。vanishing twinによる影響を受ける期間は、胎児組織の自己消化の速度や胎児死亡時の週数によって異なる。
 さらに、胎児の染色体構造異常や異数性もNIPTの結果に影響することがある。NIPTの検査対象は 21番、18 番、13番染色体であるが、これら以外の染色体がトリソミーやモノソミーである場合や、21番、18 番、13 番染色体に部分欠失もしくは重複がみられると、正しく解析できず、判定保留となる可能性が高くなる。
 また、胎児だけでなく、母体側の状態も NIPTの結果に影響することが分かっている(表24)
 例えば、母体が全身性エリテマトーデス(SLE)に罹患している場合、罹患していない妊婦に比べて母体由来のcfDNA断片が増加することに加え、短くなることが報告されている5)。それにより、対象染色体の同定が難しくなるため、一部の妊婦では判定保留となる可能性がある。また、母体のBMI 指数が高いと母体血漿中の胎児由来 cfDNA 断片量の割合が低下するため、判定保留率が高くなる6)。ほかにも、服用中の薬剤(特にヘパリン)や母体の染色体の状態も結果に影響を及ぼす可能性があるため、必要に応じ検査前に確認することが求められる。

【表2】 判定保留になりやすい母体の状態

【表2】 判定保留になりやすい母体の状態

遺伝カウンセリングの重要性

遺伝カウンセリングとは、検査に関する単なる説明とインフォームド・コンセントの取得ではなく、遺伝医学情報の提供と、心理社会的支援及び意思決定支援を行うカウンセリングをあわせて行うものである。前者では、公平で正しい情報を提供しながら、検査や疾患についての整理を行う。後者では、妊婦とパートナーが最善の選択ができるよう、不安を解消し自己決定を促していくことが必要である。
 NIPTは採血のみという簡便な方法で実施できるが、検査結果は妊婦やパートナーにとって重大な意味をもたらす可能性がある。また、精度は高いがあくまでスクリーニング検査であるため、陽性であれば確定的検査が必要となる。そして、陰性であっても、まれではあるが罹患児が出生する可能性や、他の先天性疾患をもつ可能性もある。それらを妊婦やパートナーが正しく理解し、十分納得して検査を受けてもらうために、遺伝カウンセリングは徹底して行うことが重要である。

日本国内における NIPTの現状

日本における NIPT 実施施設数は 2013 年 4月時点では15 施設であったが、2018 年7月時点では 92 施設まで増加した(図37)。また、2018 年 3月時点での NIPTコンソーシアムへの参加は 84施設、臨床研究実施数は 58,150 例となっており、毎年 1万人程度が受検している。受検者の平均年齢は 38.4歳、最も多い検査適応は高年妊娠(94.00%)で、以下染色体疾患の出産既往(2.58%)、超音波マーカーでの可能性の上昇(1.68%)と続く8)

【図3】 2019年3月時点の認定施設の分布

【図3】 2019年3月時点の認定施設の分布

導入当初に危惧されていた、検査が正しい理解のされないまま実施されることによる混乱もなく、NIPT はおおむね順調に実施されていると考えられる。これは、NIPTを臨床検査として一般の診療にすぐ取り入れるのではなく、臨床研究として導入したことや、実施施設において遺伝カウンセリングの実施を徹底していることが奏功したのだと考えている。
 また、NIPTコンソーシアムから定期的に臨床研究データが公表されているため、出生前検査に対する議論も活発に行われている。臨床の現場でも妊婦からの問い合わせが増えており、NIPTの認知度が高くなっていると感じる。

Column ②NIPTの結果報告書

NIPTの結果報告書は検査会社によって記載方法が異なり、陽性・陰性・判定保留の結果のみが記載されている場合もある。しかし、下図のように胎児ゲノム率や再検査の推奨度などの詳細な情報の記載がある報告書は、遺伝カウンセリングに有用であり、妊婦やパートナーに適切な説明を行う際に役立つ。

《NIPTの結果報告書(例)》

«NIPTの結果報告書(例)»

NIPTの今後の展望

NIPTの今後の展望としては、対象疾患の拡大が考えられる。海外の NIPT では、ゲノムワイドの NIPTも行われており、染色体の異数性だけでなく突然変異などの単一遺伝子疾患も検査対象になっている。そういった状況を踏まえて、国内でもNIPTの対象疾患が拡大する可能性がある。また、今までは臨床研究という枠組みでNIPTが行われてきたが、臨床研究に参加しない施設でも実施が可能になるため、さらに NIPTが広まると考えられる。
 一方で、NIPT には依然として受検適応の問題があると考えている。現在の適応では、染色体疾患の出産既往などの要因がない場合、35歳未満の妊婦は受検できない。妊婦のニーズを考えると、現状の臨床研究データなどを基に再度これらの適応について議論し、再考する必要がある。また、産科婦人科領域において臨床遺伝に携わる人材はまだ不足しており、さらに増えることが望まれる。
 NIPTの導入から6年が経過したが、検査について知らない妊婦も多く存在する。検査を選択するかどうかにかかわらず、正しい情報提供を行い、出産前に胎児のことについて改めて考えてもらう機会をつくることも重要であると考える。今後、 NIPT に対する正しい認識が広まり、妊婦やパートナーの自己決定のもとで NIPTが今後も適切に実施されることを望む。

<参考文献>

  1. 1)Lo YM, et al. Lancet. 1997; 350(9076): 485-487
  2. 2)NIPT コンソーシアム公開データ
     http://www.nipt.jp/nipt_04.html(2019 年3月現在)
  3. 3)Samura O, et al. J Obstet Gynaecol Res. 2017; 43(8):1245-1255
  4. 4)Hui L. Obstet Med. 2016; 9(4): 148-152
  5. 5)Chan RW, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2014; 111(49): E5302-E5311
  6. 6)Zhou Y, et al. Reprod Sci. 2015; 22(11): 1429-1435
  7. 7)日本医学会 「遺伝子・健康・社会」検討委員会 ホームページ
     http://jams.med.or.jp/rinshobukai_ghs/facilities.html(2019 年3月現在)
  8. 8)左合治彦 . 成育医療研究開発費 分担研究報告書 . 母体血 cell-free DNA 検査に関する研究(NIPTコンソーシアムとして取り組んだ臨 床研究の総括). 2018